1.再考を求める理由 |
平成22年12月10日付「平成21年告示高等学校学習指導要領に対応した大学入試センター試験の数学、理科の出題科目等について(案)」(以下、「出題科目等(案)」)は、従来の大学入試センター試験の目的と合致しないものであり、また平成21年告示高等学校学習指導要領(以下、「新指導要領」)の趣旨とも著しく乖離しています。また、高等学校の教育現場の実情をあまりに無視したものであり、この「出題科目等(案)」への対応により高等学校の理科教育は大きく乱されることが予想されます。以下にその理由を述べます。 |
(1) 従来の大学入試センター試験の目的との相反について
大学入試センター試験の目的は、「入学を志願する者の高等学校段階における基礎的な学習の達成の程度を判定すること」であり、従来の大学入試センター試験は、この目的に沿った出題がなされていると理解しています。新指導要領における理科の「基礎的な学習」とは、「物理基礎」、「化学基礎」、「生物基礎」、及び「地学基礎」(以下、「基礎を付した科目」)を指し、「物理」、「化学」、「生物」及び「地学」(以下、「基礎を付していない科目」)は、新学習指導要領に「基礎を付した科目を履修した後に履修させること」と明記されている通り、基礎科目の履修の上にさらに広い知識を得るための科目です。したがって、「基礎を付していない科目」を出題科目とすることは、これまでの大学入試センター試験の目的に反することに他なりません。「基礎を付していない科目」の出題については、「出題科目等(案)」では、「大学・学部によっては、理科に関するより広範な素養が求められること」を理由としていますが、これは大学入試センター試験を利用する大学が、それぞれにふさわしい入学者を選抜する際に考えることであり、大学入試センターは従来の目的通り、基礎的な学習の達成度を判定するための出題に徹していただきたいと考えます。
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(2) 新指導要領との乖離について
新指導要領の改訂の趣旨には、「中学校理科の学習の成果を踏まえて自然科学の複数の領域を学び、基礎的な科学的素養を幅広く養い‥」とあり、これに基づいて、「基礎を付した科目」のうち3科目が必履修科目となりました。新指導要領のもとで実施される大学センター試験も当然、この改訂の趣旨に沿ったものでなければなりません。しかし、提示された「出題科目等(案)」では、選択方法Cを除き1〜2科目を選択解答させる方法になっています。大学入試センター試験の出題科目が、高等学校のカリキュラム作成に大きな影響を与えている現状を考慮すると、「出題科目等(案)」が実施された場合、「基礎を付した科目」3科目を必履修とすることが形骸化する恐れがあります。
さらに、新指導要領では新たに「科学と人間生活」を設け、この科目と「基礎を付した科目」うち1科目の組み合わせを必履修科目として認めています。「出題科目等(案)」では、「科学と人間生活」について、「当該科目を出題した場合、大学入試センター試験が科目本来の設定趣旨を歪めるおそれや高等学校における教育内容に大きな影響を与える可能性がある」ことを出題しない理由としていますが、まったく理解できません。学習指導要領に従って必履修科目を選択した生徒が、大学入試センター試験を受験できないという事態は、あってはならないことと考えます。
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(3)「出題科目等(案)」が高等学校の教育課程にもたらす混乱について
多くの高等学校では、カリキュラム構成上、標準履修単位4単位の「基礎を付さない科目」の履修は3年次に開始することが避けられません。したがって、この科目を12月末までに完了し大学入試センター試験に備えようとすると、高等学校のカリキュラム構成を歪めることになり、受験生にも過度の負担を強いることになります。大学入試センターには、「基礎を付さない科目」を出題科目とすることにより、高等学校の教育課程にこのような弊害が生じることを理解していただきたく思います。
また、複数の選択方式から出題科目を大学に指定させる方式は、様々な選択パターンに対応するために高等学校のカリキュラム設定に混乱を引き起こすこと、また生徒には、高等学校に入学後の早い時期から自分の進路を確定せざるを得ないという事態となることから望ましくありません。受験科目の選択方式は、現行のように単純なものであることを希望します。
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以上の観点から、「出題科目等(案)」について、再考をお願い致したく思います。
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2.「出題科目等(案)」改訂のための提案 |
提示された「出題科目等(案)」における上記のような問題点を解消するために、以下の二つの改訂案を提案致します。第一案がもっとも望ましい案ですが、大学入試センター試験を利用する大学教員からは、「基礎を付した科目」の試験だけでは、現行の3単位の必履修科目から内容が大幅に減少するため、従来との比較において、受験生の基礎的な学習の達成度が十分に判定できないことを危惧する意見が多く提出されました。第二案はそれを反映したものです。大学入試センターがこのような意見を重要と評価されるのであれば、第二案でもやむを得ないと考える次第です。 |
◆第一案: |
(1)出題科目及び出題範囲
出題科目は「科学と人間生活」、「物理基礎」、「化学基礎」、「生物基礎」、「地学基礎」の5科目とする。
「科学と人間生活」は「科学と人間生活」のすべてを、「物理基礎」は「物理基礎」のすべてを、「化学基礎」は「化学基礎」のすべてを、「生物基礎」は「生物基礎」のすべてを、「地学基礎」は「地学基礎」のすべてを出題範囲とする。 |
(2)出題科目の選択方法
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出題科目の選択方法については以下のとおりとする。
E1 「科学と人間生活」、「物理基礎」、「化学基礎」、「生物基礎」、「地学基礎」の5科目から、「科学と人間生活」を含む2科目を選択解答させる。
E2 「物理基礎」、「化学基礎」、「生物基礎」、「地学基礎」の4科目から2科目を選択解答させる。
E3 「物理基礎」、「化学基礎」、「生物基礎」、「地学基礎」の4科目から3科目を選択解答させる。
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◆第二案: |
(1)出題科目及び出題範囲
出題科目は「科学と人間生活」、「物理基礎」、「化学基礎」、「生物基礎」、「地学基礎」、【物理】、【化学】、【生物】、【地学】の9科目とする。
「科学と人間生活」は「科学と人間生活」のすべてを、「物理基礎」は「物理基礎」のすべてを、「化学基礎」は「化学基礎」のすべてを、「生物基礎」は「生物基礎」のすべてを、「地学基礎」は「地学基礎」のすべてを出題範囲とする。
【物理】は「物理基礎」のすべてと「物理(4単位)」のなかからあらかじめ指定した1ないし2単位分の履修内容を、【化学】は「化学基礎」のすべてと「化学(4単位)」のなかからあらかじめ指定した1ないし2単位分の履修内容を、【生物】は「生物基礎」のすべてと「生物(4単位)」のなかからあらかじめ指定した1ないし2単位分の履修内容を、【地学】は「地学基礎」のすべてと「地学(4単位)」のなかからあらかじめ指定した1ないし2単位分の履修内容を出題範囲とする。 |
(2)出題科目の選択方法
出題科目の選択方法については以下のとおりとする。
F1 「科学と人間生活」、「物理基礎」、「化学基礎」、「生物基礎」、「地学基礎」の5科目から、「科学と人間生活」を含む2科目を選択解答させる。
F2 「物理基礎」、「化学基礎」、「生物基礎」、「地学基礎」の4科目から2科目を選択解答させる。
F3 「物理基礎」、「化学基礎」、「生物基礎」、「地学基礎」の4科目から3科目を選択解答させる。
F4 「物理基礎」、「化学基礎」、「生物基礎」、「地学基礎」の4科目から1科目並びに【物理】、【化学】、【生物】、【地学】から1科目を選択解答させる。
F5 「物理基礎」、「化学基礎」、「生物基礎」、「地学基礎」の4科目から2科目並びに【物理】、【化学】、【生物】、【地学】から1科目を選択解答させる。
ただし、F4とF5で、【物理】、【化学】、【生物】、【地学】から選択する1科目については、相当する「基礎を付した科目」との重複は認めない。
以上
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